死を前にしたがん患者の心の苦しみとその時何が支えとなるのか
~遺族アンケートを振り返って~
当クリニックでは、開院当初より積極的に在宅ホスピスに取り組み、平成23年11月までに546名のがん患者が在宅療養の後に亡くなられました。がん患者は、がんによる症状が起こったり、いろいろな場面で死を意識したりします。
在宅療養では、自分の病気ががんと分かっていても、穏やかに過ごし、「私の人生幸せだった」と振り返ることができる患者もいます。
一方で、がんという困難な病気に直面し、生きる希望を失って、「どうせ死んでしまうのだから」「家族に世話をかけてまで、生きていても仕方がない」と訴える患者もいます。このように、自分の存在を失うような苦しみをスピリチュアルペイン(霊的苦痛)ととらえます。スピリチュアルな苦しみの大きい患者の場合、患者本人や家族の苦しみはもちろんのこと、関わる私たちも困惑してしまうことがあります。そこで今回、遺族アンケートを振り返り、がん患者の心の苦しみはどのようなものがあるか、それに対する大きな救いや癒し、支えは何であるのかなどについて、まとめてみました。
◇ スピリチュアルな苦しみや支えとなるものは人それぞれ
平成20~22年で、当クリニック在宅療養がん患者106名のうち、回答のあった48名の遺族アンケートより、がん患者のスピリチュアルな痛みなどについて振り返りました。
がん患者には、「今後この病気がどうなるのか」「なぜがんになってしまったのか」「何とか治せないものか」などの苦しみに対する思いがあります。病気の告知をされた時、「いきなり死刑宣告をするとはなにごとだ!!」と気持ちの整理がつかなかったことや、再発を繰り返し「がんのあるこのお腹を取りたい、くやしい」ともらしていたなどの記載があり、病気に対する不安やいらだちが強く感じられました。
では、病気が進行した患者にとって、何が大きな救い、安らぎ、支えとなるのでしょうか。在宅療養をされた患者は、「家族とともに過ごせた」「医師や看護師、ケアマネジャー、ヘルパーと話しができた」など、人との関わりにおいて大きな安らぎを感じています。アンケートの記載では、「時には家族で夜遅くまで、今までの思い出を話し合えて幸せだった」「多くの友人が来てくれ、電話やメールでも励ましてくれた」「医師や看護師、ヘルパーの訪問を楽しみにしており、安心感があった」などがありました。また、今までの生活環境と変わらずに過ごせたことも挙げられており、「病院とは違い、ゆっくりできるし、家族の手料理はおいしい」「愛犬が側に寄り添ってくれた」など、住み慣れた家やいつも側に家族がいる安心感が大きいと考えられます。
患者との関わりや、患者の言動で心に残っていることについての記載では、
* 在宅療養することで、今までにない家族の絆ができ、いい時間を過ごせた。 家族に感謝の気持ちを伝え、「私の人生幸せでした」と振り返ることができ、
近所の方がお見舞いに来てくれ、人のつながりの大切さを感じた。
* 残される家族に本人の言葉でカセットテープにメッセージを録音した。
* 「皆さんに親切にしてもらって、自分が今まで親切にしてこなかったことを反省するよ」と亡くなる数週間前に言った。この頃よりいい笑顔がでるようになり、お見舞いの方との別れ際には、「先に行って待っているよ」と笑顔で見送っていた。孫が遊んでいるのをうれしそうに眺めていた。
などがあり、家族や友人、医療スタッフなどに支えられていることを実感し、患者、家族とも充実した時間を過ごせたという記載が多くありました。



