機関誌「花みずき」

向精神薬(精神科の薬)あれこれ

クリニック精神科医 大頭 いづみ

 だいとうクリニックで精神科・心療内科の外来を始めてから1年余りが経ちました。
午前に内科診をやっている、その同じ診察室で午後に精神科・心療内科をしているため、大多数が当院内科に来られている方です。精神科・心療内科としての受診は初めての方や、他院で受診されていたけれど、内科とあわせて一か所にまとめられるならと転院して来られる方もおられます。他科からの処方も含め、すでになんらかの精神科の薬(向精神薬)をのんでいる方が多いのですが、そんな中でよく尋ねられるのが、

1 「そんな薬をのんでたら、認知症になるって友達に言われるんだけど大丈夫?」
2 「私は睡眠薬がないと眠れないので、ずっとのんでてもいいですよね?」

という2つです。 
  これらは、なんとも即答しにくい質問です。それは、その質問の意図を探ってからでないと答えにくいからです。というのも、「だめだったらやめよう」という方もいらっしゃいますが、「大丈夫だから、そのまま飲み続けていいですよ」と言ってもらいたい、つまり「やめたくない」という方が多いように思います。共通しているところもあるのですが、順に見ていきましょう。

まずは一つ目の質問。
 何らかの “薬をのんでいる” イコール “認知症になる” 
というわけではありません。しかし、認知症を疑わせる症状がある方の中に、薬剤が原因の方がいるのは事実です。つまり、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のような神経そのものが変性してしまう器質的な「治せない認知症(ただし、困った症状が治まり穏やかになったり生活しやすくなったりすることはあります)」に対して、薬剤の影響による認知機能低下は「治せる認知症」という言い方ができます。そして、それは「そんな薬をのんでたら」といわれる向精神薬だけでなく、ステロイド・循環器系治療薬・抗パーキンソン薬・抗菌薬・鎮痛薬・胃薬など様々な薬が認知機能に影響を与える可能性があるといわれています。

 年齢を重ねると様々な身体的な悩みも出てきて、どうしても薬が増えてしまう傾向があります。その中には中止することが難しく、生活していく上で必要な薬ももちろんあります。しかし、不要になる薬もあり、認知機能の低下が薬の影響によるものだと疑われる状況になったときには、薬の減量や中止を検討する必要があります。それにより改善する可能性があるからです。それが「治せる認知症」と呼ばれる所以です。ただし、急激な減薬や中止は危険なことがあるので自己判断では絶対にしないでくださいね。必ず処方されている先生にご相談ください。

次に、2つ目の質問。
 そもそも向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬・抗てんかん薬、睡眠薬・抗不安薬、抗認知症薬などがあります。その中で、他科でもよく処方されることがある睡眠薬・抗不安薬について考えてみましょう。最近は新しい睡眠薬もあるのですが、主にベンゾジアゼピン受容体作動薬と呼ばれるもので、デパス・セルシン・レンドルミンといった薬だと言ったら聞き覚えがある方も多いのではないでしょうか?これらの薬は、日本では汎用されていて、その内服期間も長く年単位で内服されている方も多数おられます。これは諸外国と比べても特筆すべき点で、たとえばイギリスでは減薬期間を含め4週間まで、フランスでは不眠治療は4週間まで、不安治療は12週間までに制限されています。驚く違いですね。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は過鎮静、認知機能低下、せん妄(意識障害の一種、通常短期間で回復)、転倒・骨折、運動機能低下の危険があるので高齢者には可能な限り使用を控えるよう、と「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」に書いてあります。そんなわけで、厚生労働省の2018年度の診療報酬改定により、処方制限がかかっています。「同じ薬を同じ量ではもう出せないんだよなあ」と医師に言われたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、繰り返しになりますが、急に中止すると危険です。自己判断で服薬中止したり減薬したりしないでください。
 そして、可能ならば中止に持っていければいいのですが、実際はなかなか難しいと思います。試しに減らしてみたらやっぱり眠れなかった、という声も聴きますが当然だと思います。だからと言って、もう二度と減らせないとは思わないでいただきたいのです。計画的に錠数を減らしたり、日中に疲れて今日は眠れそうだという日は減らしてみたり、先生と相談しながら減らしていきましょう。

 睡眠に関して言うと、加齢により睡眠時間は短縮し、睡眠は浅くなるものです。以前のように眠れないからと言ってそれを薬だけですべて解決するのは不可能で、生活の工夫が必要です。定期的に運動する、カフェイン入りのものの摂取を減らす、寝室に光や音が入らないようにして、朝は朝日を浴びる、などがありますが、気になる方は「睡眠衛生指導」で検索してみてください。糖尿病や高血圧などの生活習慣病が、いきなり薬物治療にならずに食事療法や運動療法から始めることはご存じの方が多いかと思いますが、それと同じだと思います。また、今までずっと内服していて平気であったとしても、代謝機能の低下などにより有害事象がでてくることもあります。認知症もどきになることもあるというわけです。健康に過ごすことが目的の内服とはいえ、薬に頼り切ることでリスクが増えるのは、もったいないと思いませんか?
  というわけで、2つ目の質問の答えは、NOです。いろいろ試した上で、結果的になかなか減らせないとしても、「いつかは減らしたい」という気持ちは持っていていただきたいなと思います。「必要な時には内服してもいいけれど、やめどきを意識すべし」。それが睡眠薬・抗不安薬を飲むにあたって必要な心構えだと思います。
 ただし、統合失調症など減薬により再発につながる疾患の方もおられます。皆さん病状はいろいろなので、良かれと思ったとしても「そんな薬のんでたら」と横から言うのは、やめてくださいね。あくまで、主治医の先生と相談を、でお願いいたします。