機関誌「花みずき」

最後まで自分らしく

クリニック看護師  佐々木

 私は訪問看護で皆さんの生活歴、家族のこと、生まれた場所や育った町、子供のころ得意だったことや学校の話、趣味や仕事、夫婦の馴れ初めから夫婦喧嘩の内容、子育て・・・病気の話だけでなくいろいろな話を聞くのが大好きです。先輩方の人生経験、仕事や子育て、夫婦の話はとても参考になり、自分の行動を振り返り、反省ができるよいきっかけをいただいています。

 前回の花みずきで介護施設の紹介がありました。
 日々私たちが訪問している中で、高齢者夫婦だけの生活は不安、相方が亡くなり一人になった、認知症やがんなど病気を発症し、今までと同じような生活が困難になった時などの理由で、生活の場を変えようか検討している話をよく聞きます。
 そして「子供は一緒に住もうと言ってくれるけど、子供のところにはまだ行かない」「住み慣れたこの家で私は死にたい」「今はまだなんとか一人でできるから大丈夫」と頑張って生活されているお話もよく聞きます。今自分のことだなあと感じられた方もいると思います。
 今回、私が訪問の中で聞いたTさんご夫婦の田舎から姫路に出てこられた話を了解得て文章にさせていただきました。

 私たちが訪問させていただいているTさんは、95歳、女性。現在は娘さんご夫婦と三人で生活されています。いつも訪問すると、「こんにちは~よう来たなあ」と笑顔で迎えてくださいます。高齢のため、少しずつ筋力が低下しています。軽い脳梗塞にもかかりました。訪問看護を開始した頃はトイレから近い場所に椅子が設置してあり、そこで日中はテレビを見て過ごされていました。
 今は少しでも生活の中でリハビリを、と娘さんは考えられ、いつも座る椅子が当初より3メートルほどトイレから遠くになりました。椅子が部屋の対角線上に移動したのです。Tさんは、シルバーカーを押し、手すりをつたってトイレや浴室に向かいます。

 耳が遠くなり、娘さんと私たちの声や話の内容が聞こえにくく「何言うとうかわからん。いっこも聞こえん」と言われます。娘さんがゆっくり丁寧に耳元で伝えると、「うんうん。そうや」と返されます。部屋から出て廊下を進んだところにトイレがあるのですが、通り過ぎてしまうことがあったので、ドアを開けたままにし、トイレの中の電気をつけて、「ここがトイレ」とわかりやすいようにされています。トイレより先に行かないようにドアで廊下を通せんぼしています。家族の少しの工夫でTさんはずいぶん快適に、ストレスが少ないように生活されています。娘さんは、お母さんが高齢になり、できなくなること、失敗すること、マイナスなことも多くなるけど、最後まで自分らしく、笑顔でいてほしい、そういう楽しい時間を作ってあげたいと話されます。