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院長 大頭 信義
70歳を少し過ぎた女性である。いつも小綺麗にスーツを着て診察室に来られる。2年前にご主人を大腸がんで見送られた。再発し入院したご主人が次第に衰弱していった様子を、高血圧診療の合間にぽつぽつと話してくれた。
ご主人がいなくなって、90歳代の姑との二人暮らしとなった。ご主人との間に子供は二人いるが、関東に家庭を持っていて滅多に帰省しない。姑はほとんど自立していて、家事のあれこれに自分の意見をしっかりと主張するのが日課だった。
ところが息子を失った後は、ベッドで過ごす時間が増えてしまった。その食事への希望を叶えてあげるのが大変な上に、やがて夜間のトイレが困難になってとうとうおむつをするようになってしまった。私も、時には介護サービスの利用法などを説明したりしたが、姑は頑として他人の介入を受け入れようとしないらしい。
「お姑さんも、切ない思いをしているのだろうけど、あなたそれを受け入れてあげて、すごいですね」そんな言葉をかけるだけの私に対して、介護やつれもはっきり見て取れるようになった彼女が、ある日残していった言葉が「先生、つらい荷物はここへ全部置いていかせてね、悪いけど」だった。
そうなのかな、患者は、診察室に自分の日常のしんどさや、つらい思い、そして病気の一部さえも置いていこうとするのかな。
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